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万葉植物から伝統文化を学ぶ

万葉いけばな研究家
庄司 信洲

里芋の理美

 夏の盛りの季、この季と言えば五節句のうちの七夕を迎えることで、恋人や離人との出合の温りを高めることでの大切な季でもあります。
 この七夕に縁りのある草木では、咲き始めの秋の七草に「梶の葉、里芋の葉」が恋を成就させるために大切な草木であります。
 その大切な梶の葉には、里芋の葉の葉表に雨露を受け、その雨露にて墨を摺って梶の葉に願い事を書き示して、清らかなる川に流して願いを成就させるのです。その縁りの歌として平安時代の『後ご拾しゅう遺い和わ歌か集しゅう』には「天の川戸と渡わたる船の梶の葉に思ふ事をも書きつくるかな」(天の川がお訪れたら、船の楫かいに通ずる梶の葉に願い事を書き示すものですよ)と詠ぜられており、『万葉集』にても同意の歌が詠まれております。
 そして、今回の里芋の葉の万葉集の歌では宇う毛もと称され、次の一首のみで、「荷はちす葉ばを詠める歌」と題して、長ながの意お吉き麻ま呂ろは、
蓮【はちす】葉【ば】はかくこそあるもの意吉麻呂が 家なるものは宇【う】毛【も】の葉にあらし
(蓮の葉とはこのように大きな葉であるべきものである。意吉麻呂の家にある蓮の葉は小さいので、どうやら里芋の葉の如きである)
 この歌での蓮葉の大きさに競べて里芋の葉が小振りな葉姿であることを、意吉麻呂は自らの心の小ささを比喩させて詠じているのです。
 そして、しかしながら里芋葉は確に蓮葉より小さいのですが、大切な事は、清らかな雨水を受け、その清らかなる水滴をもって恋などの願望を叶えることができ、また往昔より里芋と蓮の葉は清らかなる食器の代用としても用いられておりました。


図版[I]
 さらに平安時代の『和わ名みょう抄しょう』に「芋、以い閉へ都つ以い毛も、葉荷はちす似」、そして江戸時代の『本ほん草ぞう図ず譜ふ』には、里芋の別名として「青せい芋う、はたけいも」、もう一種のやや大き目で蓮葉に近い葉では「白はす芋いも、茄か蓮れん朝ちょう鮮せん芋う」と記され、その図面を図版[I]にて参照して見て下さい。さらに、その他の古名として「伊い母も、家いへつ芋いも」さらに別名として「田た芋いも、畑はた芋いも、真ま芋いも、本ほん芋いも、薟えぐ芋いも、青ゑぐ芋いも、恵え久ぐ以い毛も、茎くき芋いも、葉は芋いも」さらに言祝ぎ名として「鶴つるの子こ芋いも、露つゆ取とり草ぐさ、白しろ見み草ぐさ」と称されております。

図版[II]
 そして、その里芋の葉に七夕の恋を成就させる梶の葉を出合せ、吾が国の太古の遺跡から発掘された土師はじき高たか坏つき(6世紀ごろ)に挿いけ表わした作品[II]も参照してみて下さい。
 どうぞこの季、7月の新暦より陰暦の七夕さまには、里芋の葉に清らかな雨露を受けて墨を摺りて、恋心を含めての願い事を書き置きて、清らかな水に浮べ、また清らな川に流して願い事を成就させて見て下さい。

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